ディストーションギターのミキシング【メタル・ハードコア】
メタルやハードコア系のジャンルだとギターの処理が曲の印象を決めると言って良いと思います。ミキシング段階でどういった処理をすると良いのか、試行錯誤を重ねてきたのでまとめます。
参考音源
本記事は、下記の楽曲を作った際に得た知見やノウハウをまとめた内容が主になります。内容は随時アップデートしていますが、こちらを参考音源として認識頂けると分かりやすいと思います。
基本は録り音が大事
いきなり元も子もないかも知れませんが、ミキシング以前に録り音の段階でクオリティの大半は決まってしまうのが現実です。
録れ高が低い、録り音が良くない状態だとそれをミキシングで後から修正するというのは根本的に厳しいものがあります。
DTM の場合、DAW 内のアンプシミュレーターで音作りを完成させる場合はある程度融通がきく事もありますが、それでも基本は一緒です。
演奏や録音状態など、自分ができる最高品質のライン録りを心がけましょう。
音作りについて
アンプで音作りまで終えてマイクで録音されたものや、アンプシミュレーターを通した後のギタートラックって、ミキシングで出来ることはあまり多くありません。
一度録り終えた後の音がイメージと違う…という事になっても音作りの修正はミキシング段階になってしまうと、もう難しいです。なので音作りはしっかりと作りこみましょう。
録音段階の音作りについては本記事の趣旨から逸れるのでここでは割愛します。
もちろん、弾き方も音に結構影響してきます。
ダブリング
メタルやハードコアのギターって、よく聴くと左右から鳴っている事がわかると思います。
ギターを L と R に振り分けて、サイドをギターで埋めることで迫力のあるサウンドが作れるんです。
やり方はシンプルに、ギタートラックを2本(または4本)用意して左右に振り分けます。1系統の録音で音を変えて振り分けるか、2回録音するかですね。
詳しくは下記記事で解説しています。
ローカット
ギターは中音楽器なので低域は不要です。
ヘヴィなギターであっても、ギターのローカットは必須と言っていいと思います。
録り音の段階では箱鳴りなどの不要な低域成分が結構含まれていたりして、そのままにしておくとベースやバスドラムの低域成分と衝突して、輪郭や抜けなどが失われた残念な音になりやすいのでカットします。
100hz あたりを目安に、質感や他パートとのバランスを考えてカットしていくと良いと思います。
ジャンルによって最適な塩梅は変わってきますが、ハイゲインなギターをタイトにスッキリ聴かせるためには結構思い切ってカットするのが大事です。
私は 200hz あたりから緩くシェルビングを入れて(後述)、80~100hz 付近からハイパスフィルターを入れることが多いです。
ローカットに使うフィルタープラグインは、アナログ系や緩いカーブの設定だと自然な感じに、デジタル系でバッサリいくと今っぽい音になります。好みで使い分けられる良いかもですね。個人的には下記がお気に入り。
ベースとの被りを緩和
200hz あたりからシェルビングを入れて若干削っておくのは、ベースとの帯域衝突を緩和するためです。
ベースの低域の肝となる成分って 100hz 台にあるので、この帯域のギターを1~2dbほど落してやるだけでもベースの成分がしっかり聴こえてくるようになります。
ただし、もしスカスカになってしまう場合はやめておきましょう。あくまで音を聴きながら判断すべきです。
詳しい内容は下記の記事で紹介しています。
ハイカット or ブースト
超高域に関してですが、ギターは中音楽器なので特に必要ではありません。10khz くらいから上はノイズ成分なのでカットしてしまっても全く問題ないです。
ですが逆にブーストするという選択肢もあったりして。
超高域をカットするとタイトな締まりのある音になり、ブーストすると壁感、広がり感が出てきます。
ジャンルやミックスの方向性によってどちらか選ぶと良いと思います。
ハードコア系のタイトなパンチ力がほしい場合はカット、ポストブラックメタルとかシューゲイザー要素が入るものではブーストしても良いかもしれません。
その他EQ
録り音がかっこよければ不要な場合もありますが、質感の補正やマスキングの対策などでどうしてもEQの調整が必要になることはあります。帯域ごとに特徴を書いてみます。
~100hz
箱鳴り。メタルハードコア系ではカット推奨。
100~200hz
低域の量感。ベースと被るので削っても良い。
250hzあたり
モコモコしている場合はこの辺をカットするとスッキリする。
500hzあたり
ドンシャリにしたい場合はこの辺を中心にして広めに削る。
1khzあたり
ギターのおいしいミドル。モダン系の音だとしっかり出ていることが多く、鬼ブーストするとDjent系の機械的な音になる(あとObey The Braveの1st)
2khz台
中高域のノイズがいたりすることがあるので見つけたらカット。
飛澤正人さんの動画にて2.2khzと2.5khzをピンポイントでカットすると膜が取れたようにスッキリするよーと紹介されていましたが、確かにカットしたらゴァァーっていうノイズ感が取れてスッキリしました。
3khz付近
エッジの立ったハイミッドが欲しい場合はブーストしてみても良い。
「シャアアア」という破擦音っぽい成分がノイジーに感じる場合は 3.5khz 付近を狭い Q でカット。
4~5khz
高域のおいしいところ。キレをしっかり出したいときやブラックメタルとかで刺々しい音にしたいときはブーストすると良し。
6~8khz
痛い場合はディエッサーとかで抑えてやると良いかも。
10khz~
ホワイトノイズ成分。前述のとおりカットするのか出すのかで結構雰囲気変わる。
コンプレッサー
ミキシングと言ったらコンプですが、深く歪んでいるハイゲインギターは元からコンプが掛かっているような状態に近いです。
つまり、コンプは無理に掛けなくても良いです。
ただ、それでももう少しダイナミクスを均すと作品としてより良くなる場合もあるので、そういう時はリダクション量-2dbくらいで薄めに掛けておくと良いと思います。
かけるコンプの種類ですが、薄く掛けるなら無色透明の VCA コンプレッサーが綺麗にかかりますので基本的にこれがおすすめです。
1176 や LA-3A 系で色を付けるのもありですね。
更に、重ねたギタートラックをまとめたバスにバスコンプを薄く掛けると結構まとまるのでおすすめです。
コンプについては下記の記事で基本的なことをまとめていますので、こちらもぜひ参考にしてください。
ブリッジミュートの処理
ブリッジミュートでズンズンやると低域がかなり膨らみます。
このままにしておくとブリッジミュートした時だけベースやバスドラムが埋もれてしまうという現象に悩まされる事があります。
ので、ブリッジミュート時だけ低音を抑える処理をしたりします。
そのやり方ですが、マルチバンドコンプかダイナミックEQを使って、100~200hz台に対して、ブリッジミュートした時だけスレッショルドが当たるようにします。
この処理については下記記事で詳しくまとめています。
M/S処理
ギターを左右に振りつつ、且つガッツリと前に出す処理。これをするために M/S 処理を行います。
具体的にどういった処理をやろうとしているかというのが以下。逆にそれ以外の余計な事をすると破綻しやすいので要注意です。
- mid/sideの音量調整
- EQ調整(お好みで)
音量調整は mid を下げて side を上げる感じ。
ギターのバストラックと、バンドオケ全体のバストラックでそれぞれ少しづつやるのがおすすめ。
ただし、やりすぎると左右ギターの音量感は上がってもペラペラな質感になります。またモノラルで再生されたときにギターがいなくなるので、その辺りは注意しつつ丁度良い塩梅を見つけてください。
EQ に関しては side 側のローエンドやハイエンドを落とすとスッキリしたりします。無理にやる必要はないのでお好みで。
更に詳しいことは下記でまとめています。
位相干渉を回避
左右に振ったギタートラックの位相が干渉して音が劣化する場合があります。
せっかく良い感じに録音、ミックス出来たトラックもこれで台無しになる可能性があるのでしっかり対策しましょう。
詳しくは下記記事にて解説しています。
ディストーションギターのミキシングまとめ
最初の方に述べたように、ディストーションギターのミキシングにはあまり大きな処理はやれることも多くなく必要ないです。ですが、それでも細かく見ていくと色々と項目がありますね。
全体的に言えることは、各処理をやりすぎないことと、やっぱりあくまで録り音が大事で、録り音がしっかりしていればその分余計な処理はしなくて良い筈だということです。
ミキシングで出来ることは基本的に他の楽器との兼ね合いや全体で見たバランスの調整になってきます。ギターをガッツリ出しつつ、かつ他のパートもしっかり聴こえるようにしつつ、みたいな対応ですね。
私の音楽をやる上では結構重要な項目なので、今後も研究を続けていきたい次第です。
おすすめプラグイン
私も愛用しているおすすめのプラグインはこちらです。Waves Center は Diamond にバンドルされています。Ozone, Neutron は、Advanced を買うと単体プラグインが使えて M/S 処理やダイナミック EQ が非常に便利かつ高品質です。