音圧戦争って最悪だよねって話【ラウドネスウォー】

DTM 界隈で時々見かける「音圧戦争」なる言葉がありますが、正直なところ私はこの言葉が嫌いです。良い音楽作品が生まれる妨げになっていると思うからです。

私の考えを端的に述べたツイートをしたので、先ずそちらを引用します。

音圧問題について。時々J-POPやアニソン等を耳にすると、例え落ち着いた曲調でも音圧がブチ上がっていて聴いてて疲れるものが多い印象。大量のトラックをその領域に纏め上げる技量は凄いけど、原曲の美点を音圧がぶち壊しているプロダクトを良いとは思えないかな。

※補足:「大量のトラックを~」はまた別の話です。音圧を上げすぎて原曲の良さをスポイルしてしまっている作品に疑問を感じることがあった、というのが主な主張内容です。

音圧戦争の背景

90年代末くらいからマキシマイザーというエフェクトが誕生し、音楽作品に必ず使われるようになりました。

マキシマイザーは超ざっくり言うと音圧を上げるためのエフェクターです。画期的な発明だと思いますし、私も必ず使用しているものではあります。

しかし、何事もやりすぎは如何なものかなと思うわけです。

昨今は「音圧戦争」などと言われるように、どれだけ音圧を上げられるかを競うような感じになっており、必要以上の音圧によって聴き疲れしてしまうようなプロダクトが多いと感じます。

それって、その曲本来の魅力をプロダクトの段階でスポイルしてしまっているのではないかと感じます。

なぜ音圧が上げられるのか

プロダクトとして世に流通される音楽作品、特に J-POP やアニソンが顕著ですが、これらは何故音圧が高くなっているのでしょうか。

音が大きいと良い音に聴こえる

それは人間の特性として、音が大きい方が良い音に聴こえるからです。

つまり、音声データの音量は天井が決まっているので、その中で少しでも音を大きく感じさせるために音圧を上げるわけですね。

そうすると波形が海苔みたいになるので海苔波形と言われます。

そして、各プロダクトとも、他の作品に比べて音が良くないと思われたくないので皆こぞって音圧を上げる、下げることは決して出来ない…これが音圧戦争です(ざっくりしたイメージ)

しかし、実際は良くなっていない

先程、曲の魅力をスポイルしていると書きました。

音が良くなるということなら、これは矛盾しているようにも取れますね。

では私は何が言いたいのかというと、実際には音が良くなっているわけではないと言いたいのです。

それってどういうこと?

音が大きい方が良い音に聴こえるというのは、あくまで人間の錯覚です。

再生機器で同じ音量にすれば良いだけの話でもあります。

実際は音圧を上げる(マキシマイズする)ことで、ダイナミクスが失われ、ピークが過度にコンプレッションされ、前面にペッタリと張り付いたような聴き疲れする音になっているはずです。

しかし、聴く人の音楽リテラシーが低かったり、再生機器がチープだったりすると、このマキシマイズによるデメリットを認知できないがためにこういう事になっているわけです。

だからこそ、J-POP やアニソンに音圧ブチ上げ作品が多いのだと思います。

音圧が高すぎると聴いていて疲れる

DTMer や音楽好きなら、ある程度良いオーディオ視聴環境を持っている人が多いと思います。

そういった環境なら音圧ブチ上げのデメリットがゴリゴリに認知できるはずです。

私の環境だと、YAMAHA HPH-MT8 は本当に顕著に再生してくれます。さすが全ての音を見るためのヘッドホンと謳うだけの事はありますね…。

YAMAHA HPH-MT8 のレビューはこちら。

ツイートの通りですが、このような比較的良い機器で視聴すると音圧の高い曲というのは、静かで落ち着いた曲調の曲であっても音圧ゴリゴリのペタペタで非常に暑苦しいんです。

曲の良さをスポイルしていると言いたい所以はここですね。

90年代以前の昔の音源と聴き比べてみてください。

昔の作品のほうが、抑揚や空気感があり、それらをうまく使って原曲を美しく表現している音源が多いことに気付くはずです。

音圧戦争にどう向き合うべきか

私達 DTMer はこの音圧問題にどう向き合っていったら良いのでしょうか。

それについて考察します。

ラウドネスノーマライゼーションの存在

近年は、Youtube やニコニコ動画、各種配信プラットフォームなど、インターネットに音源をアップロードする主要なプラットフォームの多くはラウドネスノーマラーゼーションと言われる機能を搭載しています。

これは端的に言うと、プラットフォーム側で音量に自動調整が入るという機能です。

原曲データの音圧を極端に高くしてアップロードしても、プラットフォーム側でそれを検知して、自然な聴感音量になるように音量を下げられるということです。

この機能によって、無闇に音圧を上げると海苔波形のまま音量を下げられてしまう事になるため、ネットに曲をアップする際は音圧をブチ上げるメリットがなくなってきています。

ラウドネスノーマライゼーションについては下記の記事でもう少し詳しく触れています。

とはいえ高音圧作品はまだまだ多い

CD に関しては、ラウドネスノーマライゼーションの概念はありません。

そのせいか、メジャーレーベルから出ているような作品はまだまだ音圧を高くした商品が多いのではないかと思います。

調べると出てきますが、音圧が高いことで有名なレーベルなどもあるようですね。

先述の通りですが、音楽リテラシーが低い一般ユーザーにとっては音圧が高い方が音が良く聴こえる可能性があります。

そのようなユーザーを対象とした上で、他のレーベルに劣っていると感じさせないためにどうしても音圧を上げる必要がある…そんな業界事情が垣間見えますね。

アマチュアは音圧戦争に参戦しなくていい

私達 DTMer、特に業界のプロダクトづくりとは無関係に音楽製作を楽しんでいる身であれば、素人の特権として業界の掟に従う必要はありません。

商業プロダクトとしての音圧にこだわるのではなく、原曲が最も輝く仕上げを狙っていく権利が私達にはあります。

音圧戦争から退いた DTMer 達がネット等で存在感を示していけば、そっちがスタンダードになっていく可能性も十分あり得ます。

そして何より、私自身もそういった方々の良い音楽作品を沢山聴きたいです。

というわけで結論として、この記事を読んでくださっている皆様には、音圧に囚われずに原曲が輝く仕上げを追求して良い作品を作って欲しいと思う所存です。

ちなみにマキシマイズは iZotope Ozone などに任せておけば十分ですよ。Ozone も 9 になってからは無闇に音圧をブチ上ることもなくなり、自然な感じに仕上がります。

さいごに

色々書きましたが、スタイルによっては音圧を上げることで原曲が輝く場合もあります。

過度なリミッティングによる潰れた感じを音作りや表現として利用できる場合ですね。こういう曲の場合は音圧をブチ上げる事は手段の1つとしてありです。

ちなみに私の作品では、表現したいことを考慮して音圧はほんの少し上げるくらいにしています。

Youtube やニコニコ動画などでも自動音量調整が入るようになった昨今ですから、音を大きくする事にこだわりすぎず、曲や表現によってベストな選択肢を取っていきたいですね。

おまけ

私も愛読しているミキシングの超絶バイブル「音圧アップのためのDTMミキシング入門講座」という本があります。

こちらは著者の石田ごうき先生曰く、「音圧」と書いたほうが売れるからこのタイトルになったとのことです。

本のレビューはこちらに書いています。