MDR-CD900STはDTMではオススメしない

モニターヘッドホンの超定番機種である SONY の MDR-CD900ST ですが、DTM 用途としては必ずしもおすすめ出来るものではありません。今回はその理由について、ご紹介したいと思います。

MDR-CD900ST とは

MDR-CD900ST は、SONY が誇るモニター用ヘッドホンの超ベストセラー製品です。

サイドの赤いラベルが特徴ですね。

レコーディングスタジオなどにはほぼ100%常設されており、文句なしの業界標準モニターヘッドホンと言える製品だと思います。

私もバンドのレコーディングなどの際に、スタジオに必ずある MDR-CD900ST を散々使ってきました。

随分昔からある機材だなとは思っていたのですが、調べたらなんと発売は30年以上も前の1989年。一般向けにも1995年から販売開始されており、今に至るまで基本仕様がほとんど変わっていないというのだから凄いです。

1989年といえばバブル真っ只中。それ以前の時代は日本が技術力で世界をリードしていたそうですが、そんな時代を象徴するというか、そんな時代の集大成ようなプロダクトの1つなのかも知れませんね。

…そんな超凄いヘッドホンですが、お値段は1万円台で購入が可能で、DTM を始める際に揃えるべき機材として紹介されていることも多いと思います。

しかし、MDR-CD900ST って必ずしも DTM 用途や DTMer にとっての良い選択肢ではないんですよ。

私も自宅の DTM 環境で MDR-CD900ST を使うことはありません。

何故なのか?今回はそんなお話をしたいと思います。

「モニターヘッドホン」の意味

ヘッドホンでモニタリングをするイメージ

MDR-CD900ST が分類される「モニターヘッドホン」とは、そもそも何でしょうか。

まあそのままの意味といえばそのままなんですが、モニター・モニタリング用途に向けたヘッドホンということですよね。つまり、音を監視する・確認するためのヘッドホンということになります。

特徴としては、音を正確に捉えるために余計な味付けはせず基本的にフラットな EQ 特性で、原音に忠実に再生できるようにチューニングされたヘッドホンです。

…と、ここまでは良いと思います。

問題なのは、「何をモニターするか」という部分。

MDR-CD900ST は「モニター≒レコーディング」

レコーディングのイメージ

MDR-CD900ST はどこのレコーディングスタジオにも置いてあると述べました。

そう、端的に言うとレコーディング用途に最適化されているモニターヘッドホンが MDR-CD900ST ということなんですよね。

レコーディング時、特にボーカルのレコーディングなどで返しのモニターから自分の声を確認する時、自分の声を音として正確に捉える、そんなシチュエーションが得意なんです。細かいミスなどが非常に見えやすいです。

なので MDR-CD900ST って実はフラットと言いつつも特性がちょっと高域に寄っていたりします。若干ブライトな方が捉えやすくなるんでしょうね。

または、放送現場などでもよく使われています。こちらも音を物理的に正確に捉えることが求められる現場のようです。

DTMでは「モニター≒ミキシング」がメイン

DTMのイメージ

DTM 用途、特に宅録 DTMer にとって音をモニタリングするシチュエーションというのは、多くがミキシングないしマスタリングの工程になるのではないでしょうか。

ミキシングやマスタリングというのは、バランスを取るのはもちろんですが、なにより楽曲の味付けを決めたり、音源作品としての表現の方向性を決める重要な工程です。

ここで求められる要素は、音楽を音楽的に格好良くしていくために最適化されたモニター環境です。

なので、音を音として正確に捉えるのは勿論のこととして、広がり感や空気感、奥行き感やふくよかさなど、音楽的な表現に関わってくる要素も捉えたいんですよね。

MDR-CD900ST はミキシングが苦手

MDR-CD900ST って、実は上記のような音楽的な音の捉え方が苦手です。

つまりミキシングには向いていません。

音を物理的な音波として、ソースに忠実に再生はしてくれるものの、人間の五感に訴えてくるような部分はあまり見えてこないんですよね。中域を中心にペタっと貼り付いてしまって、奥行き感などはあまり見えないというか。

だからこそ人の声などは捉えやすいのでしょうが、音楽的にモニタリングできるかというと、ちょっと違う感じがします。

DTM のプラグインなんかでも、クリアな反面デジタル感が強すぎてつまらない音にアナログ風の温かみを加えたりとかするじゃないですか。あの感覚のデジタル方面に特化したキャラクターが MDR-CD900ST って感じでしょうか。

それから中域~高域がクリアで聴き取りやすい反面、低域が弱くモニタリングしにくいという点も気になります。やはり人の声などを正確に捉えるにあたって、余分な低域成分が無い方が良いということで控え目に調整されているのかも知れません。

しかし低域の表現って、音楽においては超メチャクチャ重要です。ここがあまり見えてこないとなると、実質的にブラインド作業に近い状態と言っても過言ではないでしょう。

まとめ

ということで MDR-CD900ST は、音楽を音楽として音楽的にモニタリングするのには向いていない、つまりミキシングやマスタリングには向いていないヘッドホンなんです。

なので、モニタリングの主な用途がミキシングなどになるであろう DTMer が買うべきヘッドホンではあまりないんです。

もちろんレコーディングをガンガンやるなら話は別ですが、それでもミキシング以降の用途には別のものを用意しておいた方が良いと思います。

ただ超有名なヘッドホンではあるので、ベンチマークとして1つ持っておくというのはアリでしょう。今回ご説明した特徴はあくまでご理解の上での購入をおすすめしますが。

ということで結論をまとめると、

どんなに超有名な素晴らしい製品であっても、使い方を間違えるとあまり活きてこない。

です。

なお、DTM 用モニターヘッドホンのおすすめはこちらの記事にまとめています。

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